老人ホームといえば
ひと足遅れで他人に仕事を取られないために、自分はこうしていつも背広を持ち歩いている。
背広だけではなく、履歴書も3枚ほど携えており、いつでも面接に応じられるようにしている。
求人票を出す会社は、ハローワークに良い印象を与えたいから、年齢制限をあえて付けないこともあるし、それほど本気で採用する気もないのに、求人を出したりすることすらある。
ハローワークには職業再訓練制度もある。
訓練のための施設があり、雇用保険法にもとづいて技能習得手当も出る。
失業給付は半年で終わってしまうが、訓練の期間中は支給が延長される。
訓練を受けた場合は日額600円の受講手当や交通費まで出る。
通学制度と通信制度があり、対象になるのは中小企業診断、社会保険労務、宅地建物取引、簿記検定、税務関係、生産管理、語学など。
「へ−、至れり尽くせりじゃないですか」感嘆の声を上げるOに、Kは皮肉な口調で答えた。
「ところがね、あんまり役に立たない」「訓練を受けましたと面接で言ってもね、会社は実務経験がないじゃないかと言って断ることが多い」それでは何のための職業訓練なのか。
それとも、ハローワークの訓練と企業の求めている職能とにミスマッチがあるのか。
例外的に上手く就職口を探せた例を、Kは教えてくれた。
それはハローワークの窓口に座る相談業務の訓練を受けた人の例で、去年までは失業者だった者がいまはハローワークで失業者の相談に乗っているという。
Oは思わず吹き出した。
「な、おかしいだろう?だから、ハローワークなんて失業給付の配給所でしかない」「全くですね。
でも…:」。
「でも、なんだい」「Kさんは、通っておられる」「俺がここに来るのは、一種の意地だね。
本当の出版編集の口が見つからない限り通い続けるつもりなんだ」「なるほど……しかし、食べていくのは大変でしょう」「女房が働いているからね。
それに、ときどきアルバイトもやる」「え?それじゃ」「違反している、って言いたいんだろう?」「ばれないのですか」「タレ込まれない限りね」Kはいたずらっぽい目でOを見た。
「あんた、タレ込まないだろうね?」「まさか、僕は」「いや、冗談だよ」木下によれば、他に収入があるにもかかわらず失業給付を受けていることがばれるケースは、ハローワーク職員の家庭訪問や電話に家の者がうっかりして本当のことを告げてしまう場合が多いという。
そのほか、バイト先が雇用形態によって雇用保険に加入する場合があり、本人にはいわずに会社が手続きを取ってしまう場合もある。
Kは得意げにいろいろと説明してくれた。
自分と同じ年恰好の人間を見つけては、こうやってハローワークのウンチクを傾けているのだろう。
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